ジャンカメハンターのぐりやんです。
本日の獲物はZEISS IKON CONTAFLEX1の最初期モデルです。
最近は露出計搭載カメラの電流計ばかり修理していたので気が滅入っています。
そんな時は機械式カメラで心をリフレッシュさせねばなりませんw
CONTAFLEX Ⅰ(861/24)
コンタフレックス1は1953年に「西ドイツのツァイスイコン」から発売されたレンズ固定式レンズシャッターの一眼レフカメラです。このカメラはツァイスイコン初の一眼レフカメラであると同時に世界初のレンズシャッター式一眼レフだったそうです。レンズはもちろん「CarlZeiss Tessar」の45mmF2.8です。F2.8なのでファインダーが暗いと思うかもしれませんが非常に明るいです。中心にスプリットプリズムが有りその周りにマイクロプリズムが有ります。しかし周囲にマット面は無くファインダーの中心部でしかピント合わせができません。絞りは自動絞りですがミラーはクイックリターン式ではありませんから、レリーズ後はファインダーが真っ暗なままとなります。
コンタフレックス1には3種類有ります。拙者が入手したのは最初期型でコードナンバーは861/24です。シャッタユニットはシンクロコンパーで10枚絞りを搭載しています。自動絞りの一眼レフで10枚絞りはかなり珍しいのではないかと思います。綺麗なボケが期待できますね。
第2世代はコードナンバーが861/24Z、第3世代は861/24Aとなります。第2世代まではシャッター速度が大陸系列第3世代はレンズシャッターユニットがシンクロコンパーMXVになり倍数系列でセルフタイマーが付きました。絞りは5枚羽根となっています。
状態
先ずは、ファインダーを覗いて見ると、真っ暗です。しかしこのカメラがクイックリターンミラーでは無いことは検索済みw
おもむろに巻き上げてミラーが上がったところでファインダーを覗くと!
ど真ん中にガラスの破片らしきモノが見えておりまして、ファインダーの右上端にはガラスが欠けたような影があります。カメラを振っても破片らしきものは動きません。OH!NO!
またもやかなりのジャンクを引いてしまいましたねぇwww
その他、シャッターは粘っておりまして、巻き上げノブは超重く指の皮が剥けそうなレベルw
そして絞りリングもメチャクチャ硬く、とっても動きが悪くての皮が剥けそうです。
フィルムカウンターの動きも変ですねぇ。正常に1コマづつカウントされません。
そして裏蓋とボディのシリアルナンバーが一致していません。ニコイチ個体ですね。
分解してプリズムの状態を確認
まずはファインダー内のガラス片を確認すべく、軍艦部から分解開始ですね。
セオリー通り巻き上げノブから分解を初めてみますと?
なんか変です。ネジの上にシムがのっかちゃってます。幾ら何でもこんな組み方は無いでしょう。そしてシムにギアで押しつぶしたような謎の跡があります。こりゃニコイチってことはわかってるけど、かなりのヤバジャンクの予感ですね。
この巻き上げノブの組み立て順をサービスマニュアルで確認すると、やはりパーツの取り付け順がおかしいですね。いったん順番通り組み直しカウンターの動きを確認すると正常になりました。
カウンターの故障原因は人的な組み立てミスでした。
次はアイピースですが、ペンチでかじったような跡が!かなり乱暴にそしていい加減に分解組み立てをされたようです。
プリズムユニットは3本のネジで止まっているだけですがその下にあるワッシャは厚みが違うようなので場所をまちがえないようにマーキングして取り外しました。プリズムはピアノ線みたいな部品で引っ掛けて止まっていますね。これを外すとプリズムを分離することができました。
ところが欠けていると思っていたプリズムは問題ありません。腐食も一切なし。で、欠けていたのはコンデンサレンズでした。
コンデンサレンズとピントスクリーンはコの字型のピアノ線で止まっていますからこれを抜きました。
隅っこが欠けたガラス製のコンデンサレンズが露わに。マジか〜。しかもコンデンサレンズはガッチリとハマっていて外せません。ガラス片が噛んでいるのでしょうか?無理にやるとまた割れてしまいそうです。困ったなぁ。
大きな破片はプリズムとコンデンサレンズの間に引っかかっていただけみたい。
コンデンサレンズの欠けた部分が気になります。どうにかならんかなー?
ひらめいた!w
コンデンサレンズの修復
車のフロントガラスのリペアキットてご存じですか?飛び石なんかで出来たヒビに、レジンを流し込んで修復するんですが、これの真似事で修復をやってみようと思います。
使うのはもちろん100均UVレジンです。100均のUVレジンでコンデンサレンズの破片をくっつけてしまおうという無謀な作戦ですね。まあ失敗しても諦めるだけで良いですから試しにやってみましょう。
コンデンサレンズは噛んでいるのかフレームから抜けません。どうやっても抜けないので諦めてそのままレジンを適量塗布して破片を押し付けてUV照射しました。
程よくレジンが固まったところで、はみ出したレジンをゴシゴシと拭き取っていると何故かポロリとコンデンサーレンズがフレームから抜けました。ラッキー。これでコンデンサレンズとピントスクリーンの間も綺麗に掃除することが出来ます。
で接着の具合はと言うと?なかなか良さそうです。
角っこは粉々になったのか、少し破片が足りなかったようですが、組み込めば黒いマスクフレームで隠れてしまうので問題なさそう。
気になるファインダーに見え具合は?
なかなか良いですね。ヒビは見えますが元に比べればかなり良くなったと思います。
これは成功と言っていいでしょう。
あとは各部を分解し注油すればシブい動きは解消できるだろうし、シャッターはスローガバナを洗浄すれば直るだろう。(と軽く考えていました。まさか茨の道が始まろうとは思っても見ませんでしたw)
レンズシャッターの一般的な整備と今回の整備方針
レンズシャッターが調子が悪い場合、シャッターや絞りの羽根に油がべったりと付いていることがほとんどですが、この個体では油は全く見られませんから、「スローガバナの洗浄」のみでOKでしょうってことで前から分解していくことにします。
この梅の花のようなピントリングがカワイイですね。(花弁6枚の梅花は稀に見られるようです)
このリングの外し方が独特なんですね。外側の距離指標リングのイモネジを外して、その穴から内側のピントリングのイモネジを緩めるのです。これ知らなかったら分解困難ですね。
スローガバナの整備だけなら前から分解するだけでOKなのですが、よく考えてみると後玉が汚いんですよね。なので後玉をクリーニングするとなるとレンズシャッターを分離せねばなりません。
整備方針を全バラに変更します。貼り革がボロボロなんでやりたくなかったんですけどね。
最も重要なのはフリクションの低減だった
ネット上には分解の情報はほとんどありませんがサービスマニュアルを発見する事ができました。あとは動画を見て予習したのち全バラ整備を始めます。
軍艦部はすでに開けてプリズムも取り外していますから、ボディを上下に分離します。
上ボディはサービスマニュアルでは「ギアボックス」という名称で巻き上げやミラーの駆動のためのテンションスプリング機構が収められています。下ボディにはミラーと遮光シャッターだけですね。
前板を外すには貼り革を剥がさなくてはなりません。しかし貼り革は完全に劣化していて綺麗に剥がすことはできませんでした。この貼り革は、黒い紙の上に極薄の本革が貼ってある二重構造のようで、下の黒い紙が劣化してボロボロなんですね。製造から70年も経過していますからしょうがないですね。
前板を外すとボディ側に残るのはミラーと遮光シャッターそして巻き上げ、巻き戻しの部品のみ。シャッターをチャージ、レリーズする機能や自動絞りをチャージしたり絞り込んだりする機能はボディ上のギアボックスとレンズパネル内に組み込まれている。
レンズパネルの整備
心臓部はレンズパネル内にあります。ここに色々なギミックが内蔵されているのです。
先ずはシンクロコードのハンダを外してから、レンズパネルからレンズシャッターを取り外しました。
(実はこの時点でレンズシャッターの整備を実施していますがゴチャゴチャするので次項でW)
レンズシャッターユニットは一般的なシンクロコンパー(ラピッド)#00とほぼ同じで、一眼レフとして使うための仕組みや自動絞り機構などの制御部はシャッターユニットの外側に追加されていました。シャッターユニットの外周にチャージ用のリングギアが嵌め込まれており(上写真左のレンズシャッター周りに付いているギア)シャッターチャージ完了と同時に絞りを開くカム(自動絞り機構)を押すようになっています。レリーズすると、このリングギアがギアボックス内のスプリングテンションによって逆回転して、それに伴なって絞りが設定値まで絞り込まれて最後にレンズシャッターのレリーズカムを作動させる仕組みになっています。
自動絞りの絞り込みにはレンズパネル内に専用のテンションゼンマイが内蔵されておりその力で素早く羽根を閉じるような仕組みななっています。
構造は単純ですが仕組みは複雑で各部の潤滑油が経年で粘っており作動不良を起こしてしまっているようです。
レンズシャッターを取り外すとレンズパネルの内部が見える。
レンズシャッター周りにあるギア付きのリングギアがシャッターのチャージとレリーズを担当している。
リングギアはカメラを前から見たときに右回りでシャッターをチャージする。ギアボックス(上ボディ)にあるレリーズボタンを押すとギアボックス内の駆動力でリングギアを左回りに一気に回転させてレンズシャッターのレリーズカムを作動させるようになっている。
レンズパネル内にも大きなリングギアが二つ見えている。大きい方が自動絞りをチャージするためのギア。真鍮の2段ギアと噛み合っているのが見えるがこの真鍮ギアがギアボックスに連結されている。
巻き上げるとシャッターチャージギアと一緒に自動絞りも同時にチャージしつつ絞りを開放する構造になっている。そして内側のリングギアがレリーズと同時に自動的に絞りを閉じるためのギアである。2段の真鍮ギアの対角にあるギアは実は内部にゼンマイが内蔵されており自動絞りを一瞬で設定値まで閉じるパワーを蓄えて、レリーズ時に瞬時に絞りを閉じる力を生み出しているのである。
まあ文字で書いても全く理解できないとは思いますが一応参考までに書いてみましたw。
で、最終的に問題だったのがこの幾重にも重なるギアのフリクション、いわゆる抵抗ですね。これが悪さをしてなかなかマトモに動かないのですよ。
サービスマニュアルには「ダイアフラム(絞りの事)が全く閉まらない。もしくは閉まるのが遅すぎる。」という項目がありまして、項目の最初には「ダイアフラムの全ての部分は可能な限りスムーズに動作する必要があります。」と書いてあります。
実際に最後まで悩まされたのは、レリーズ後の自動絞り追従です。レリーズ後、一旦シャッターが閉鎖して、次にシャッターが開く時には、絞りは設定値まで絞り込まれていなくてはなりません。しかし絞り込みがシャッターの開放に間に合っていないのです。
これ一瞬の出来事ですから肉眼では確認できないんですね。一度組み立ててチェックしているとなんかシャッターが作動し終わった後に絞りが動いているように見えたんです。しかしよく見えない。
そこで用途は違いますがDJI ACTION2を使って240FPSでのスロー撮影をして動きを確認しました。
マクロレンズは持っていないのでピンボケですが、シャッターの動きを確認することはできますね。
最近は色々便利ですね〜。
でスロー撮影の結果がコレです。
これは絞りを最小のF22にして高速(確か1/250)でシャッターを作動させた時の動画ですが、自動絞りが絞り込まれている途中でシャッターが開き露光が完了してしまっています。つまり絞り込みが間に合っていないです。
これじゃ全くダメですね。
スローシャッター(確か1/8だったと思う)だとどうなるのか?
シャッターが開いている間も絞りは閉じ続けシャッターが閉じる寸前に絞りがF22に達しています。
これも全くダメですね。絞りの閉鎖が遅すぎます。
絞り込みのテンションを発生させるゼンマイのノッチ数は取説によると、絞りがF22まで閉じた後4ノッチとなっていますが、トータル20ノッチまでテンションを上げても追従されませんでしたから、各所のフリクションが原因で絞りの動きが遅くなっていると判断しました。
結局何度もギアの組合せを変えたり、フリクションが発生しそうな部分を清掃したりグリスの種類を変えてみたりしながら10回位ぐらいは分解組立しました。結果的にグリスを使ってはダメですね。サービスマニュアルには「ZEISSIKON OIL OS2を少量塗布する」となっていますがどんなオイルか分かりません。拙者はPTFE入りのオイルを希釈したものを使ってなんとか追従させる事に成功しました。拙者的には二硫化モリブデンやPTFE系の乾式潤滑剤が最適では無いかと思います。
最終的な自動絞りテンションゼンマイのノッチ数はトータル8ノッチとしました。
こちらの動画は前からの撮影になっています。シャッター速度は1/500です。シーケンスが開始されるとシャッターと絞りが同時に閉じ始めて、再度シャッターが作動し露光するときにはきちんとにF22に絞り込みが完了しています。これでOKですね。ここまで実に長い道のりでした。(ここまで4日もかかってます)
レンズシャッターの整備
実はレンズパネルの整備をする前にレンズシャッターを整備しておきました。シャッターが正常に作動しないとレンズパネルの整備はできませんからね。一口にシンクロコンパーシャッターといっても実は搭載するカメラによって色々とカスタマイズされています。
一番の違いは赤矢印でしましたカムでここを押すと絞りが強制的に開放されます。自動絞りに対応するためのもので一眼レフならではですね。
スローガバナを洗浄するために取り外したいのですが、このシャッターはスローガバナにきついスプリングが2本も引っ掛けてあるんですね。
これがちょっと厄介なんですが、スプリングを外してからスローガバナを取り外します。
ベンジン浴で洗浄して乾燥させたら、正常に動くようになりましたのでシャッター内に組み付けます。
これで全速正常にシャッターが切れるようになりました。
最終整備
残るはちょっとだけ使われていたモルトの貼り替えとレンズのクリーニング、そして化粧直しをします。
前玉はかなり汚かったのですが綺麗になりましたが、後玉は少しクモリが残りました。
モルトが使われているのは、ミラーと遮光シャッターの間とギアボックスの下側の2箇所のみですからサクッと貼り替えます。
貼り革はボロボロなので作り直そうかとも思いましたが、適当にパズルして貼り付けてアクリル絵の具で化粧直しましたw
最終チェックとコンディション認定
やっとのことでまともに動くようになりました。コンデンサレンズの欠けさえ無ければとは思いますが写りには影響ありませんからね。「難あり品」ではありますが実用には十分でしょう。
あとがき
最後まで読んでいただき感謝です。
ZEISS IKONの歴史的名機コンタフレックスを入手することが出来て使えるようにすることが出来たので満足しています。このカメラの修理の肝は何と言ってもレンズパネル内のリングギアのフリクションを如何に減らすかって事ですね。挑戦する方は頑張ってくださいね。
コメント