2023.11.7
リコーテクニカルレポートにより一部追記
ジャンカメハンターのぐりやんです。
本日の獲物はRICOH FF-1です。
このカメラ実は10年以上前に完全不動のジャンクとして入手していたのです。レストアを試みましたが自動絞り機構の致命的な故障により修理保留として、ドナーとなる格安ジャンク品を入手できたらニコイチにしようと思っていました。
しかしFF-1の中古は、なかなか出て来ない上に、出てきても価格が高くドナーとしてはちょっと手が出せなかったんですね。しかしやっと納得できるものに出会いましたので購入に至りました。
ストラップが付いている方が2号機です。貼り革が違いますね。
シリアルは1号機が27万番台2号機が29万番台です。互換性がなかったらどうしよ(汗)
RICOH FF-1ってどんなカメラ?
リコーFF-1は1978年に発売されたちょっと変わった見た目のカメラです。FFというネーミングはフルフラットから来ているそうです。
リコーテクニカルレポートによりますと特徴の一つに「最軽量の巻き上げトルクを実現できた」とあります。確かに巻き上げがとっても軽いです。
同じ資料によりますと本機の特徴は
- ワイシャツのポケットに入る大きさ
- 超軽量ボディ
- 強靭なボディ構造
- 操作性の良いフォールディングタイプの沈胴
- シャッターチャンスに強い電子プログラムシャッター
- 広角35ミリレンズ
- カメラブレの少ないソフトレリーズ
- 軽く滑らかなフィルム巻き上げ
となっています。
鏡胴が沈胴式で、レンズが丸っとボディに格納されるちょっと珍しい機構を持ったコンパクトカメラです。MAMIYA6などのフォールディングカメラに見られるレンズの蓋を縦に引き出すとレンズがヌルッと出てくるのと同じギミックです。MINOX35シリーズを参考にしたんじゃね?って感じで見た目も似ています。
MINOX35シリーズの初代である「MINOX35EL」が発売されたのはFF-1より4年早い1974年でした。
レンズはCOLOR RIKENON 35mm F2.8です。35mmってところにグッと心を掴まれるのは拙者だけでは無いはず。(であって欲しいw)
レンズの構成は3群4枚のテッサータイプで焦点調節は前玉回転式ヘリコイドです。前玉のみを繰り出す方式ですからピント位置によって画質が変化するわけですが緑の2重丸(常焦点マーク)の時に最高の画質が得られる設計になっているそうです。常焦点マークでEV12以上の明るさがあればF5.6以上に絞られますからパンフォーカスとして使えるようになっています。屋外のスナップならば緑マークでピント合わせは必要ないわけです。
操作系はピント目測で露出はプログラムAEです。絞り優先AEと書いてあるページ等も見られますが間違いです。ホットシューにフラッシュを取り付けるとシャッター速度が1/60で固定されるようになっていますから、ホットシューカバー等を取り付けたい場合は注意が必要です。
シャッターはコパル製のものを搭載しているのですがこのシャッターがちょっと変わっていまして3枚羽根で絞りを兼ねていますので絞り開口部は三角形に近い形状になります。
2台のFF-1の状態
10年以上前に購入した個体(以後1号機と呼称)は不動だったものをシャッターが動くところまでは修理したのですがシャッター内部のプラスチック製のカムが破損しておりまして、シャッター速度は変化しますが絞りが変化しないと言う状態でした。(写真左が故障品 ポッチが欠損して、絞り不動)
今回ジャンクでドナー用として購入した個体(以後2号機と呼称)はちゃんとポッチがあります。
しかしレリーズしてもシャッターがバルブ状態で開きっぱなしになるという問題があります。開きっぱなしになると言うことは制御回路の故障だと思います。たぶんw
ニコイチ修理の方策
まずは1号機の方がボディや裏ブタなどは綺麗ですから1号機を元にしたいと思います。1号機はレンズシャッターの部品が破損していますから、2号機のレンズユニットと鏡筒をフレームごと丸っと1号機に移植しようと思います。2号機のシャッターは一応作動しますからソレノイドの故障はないと思います。多分2号機は制御基板が故障していると思います。またレンズの状態も2号機の方が良さそうですからマルッと移植します。
また1号機はアルバダファインダーフレームの蒸着がカビによる腐食で劣化しているので、ファインダーも2号機のものを移植する計画です。
分解
このカメラの分解方法はネットで検索しても出てきませんね。なぜかと言えば分解して再組み立てするのがかなり困難だからだと思います。しかも構造が謎で分解するだけでも難しいんです。
拙者はずーっと前に分解した時に構造が理解できずかなり苦労したので、分解のキモと言える部分は記憶していました。今回再度分解してみましたがやはり難易度は高いと思います。
むやみに分解すると簡単に壊してしまいますから、タスキを外すキモの部分は伏せますが、分解に成功した場合、壊してしまわないためのコツだけをメモも兼ねて公開しておこうと思います。
沈胴レンズユニットのフレームを抜くコツ
沈胴ユニットのフレーム(以後フレームと呼称)を止めているのはレンズ周りの4本のネジなのですがコレを抜いてもフレームは抜けません。レリーズプッシュロッドとスプロケットを抜く必要があります。
ですからかなり分解しないとフレームを抜くことはできません。
写真で見ても分かる通り、上も下もかなり分解を進めなくてはなりません。
またこの底面に内蔵されている基板とスライド式の五つの接点が、レンズの沈胴に合わせて接断する構造になっていますから、接点を曲げないように注意が必要です。
ワッシャーの脱落には細心の注意が必要
フレームごとレンズユニットを抜くところにこそ、細心の注意が必要です。フレームの横に付いているレンズを出し入れする為のタスキを絶対に外さないように(簡単に外れます)押さえながらフレームを抜く必要があります。
フレームの両サイドの内側には遮光のためと思われる可動式の金属板とワッシャーが入っており、そこにタスキのピンが挿入されているのですが、このワッシャーが外れてしまうと元に戻すのがかなり困難です。ワッシャーは金属板の間に入れなくてはなりませんからフレームを分解する必要が出てきますし、ワッシャーを固定する治具を作るなど組み立てには何らかの工夫が必要です。ですから分解後もタスキは絶対に外さないでください。タスキにテンションをかけているバネ(上写真に見えているバネ)を取り外してタスキが落ちないように輪ゴムやマステで固定しておくと良いかもしれません。
2号機のレンズ周りをフレームごと1号機に移植する
まずはレンズ内の部品が破損している1号機のレンズ格納フレームを抜き取ります。そして上で説明した通り2号機のレンズ格納フレームをタスキを外さないように気をつけながら抜き出して、そのまま1号機に移植します。
果たしで動くのでしょうか?作動チェックが可能なところまで一旦組み立てます。
早速作動チェックしてみたが・・・
明るいところに向けてレリーズして、絞りが作動しているかチェックします。
結果は、ダメでした。
シャッターは動いていますが絞りは動きません。原因を考えます。
実はこのカメラの絞りがどのように制御されるのか疑問でした。レンズと本体の接点は5つしかなく辿ると2つはソレノイド駆動、2つはチャージセンサ、残る1本はシンクロ用だと思われます。
つまり絞り値をボディ側から制御しているわけではなく、シャッター速度と連動して絞り値が機械的にに変化する構造だと思われます。となると絞りが動かないのはシャッター速度が絞りが作動する速度に達していない可能性があるのではないかと言う気がしてきました。
このカメラはフラッシュを取り付けるとシャッター速度を1/60に固定するようになっています。このスイッチを押してレリーズしてみると明らかにシャッター速度が上がりました。
このことからEV15程度の明るいところに向けても1/30程度しかシャッター速度が出ていないことになります。シンクロ速度以上にならないと絞りが作動しないので1/30程度で絞りが作動しないのは当然と言えるでしょう。
ですから、絞りが作動しないのはシャッター速度が出ていない為と結論づけました。
そこで考えられる原因はCdSですねえ。CdSというのは明るくなると抵抗値が減少してゆく素子ですから、少し乱暴ですが試しにCdSの足をショートさせてレリーズしてみます。
♪───O(≧∇≦)O────♪キター
絞りが作動しました。CdSの劣化に間違いありません。基板が壊れていなくて良かったw
2台のCdSの抵抗を比べてみる
1号機のCdSはEV15付近での明抵抗が2KΩ程度2号機は1KΩ程度どうやら1号機のCdSは劣化しているようです。2号機のCdSユニットを1号機に移植してみることにしました。
すると絞りが作動しました。しかしEV15で試しても絞りが開きすぎているような気がします。
見た感じではレンズ開口径の半分程度つまりF5.6ほどでは無いかと思われます。
カメラの露出制御を知るためにはプログラムマップが必要ですが、そんなもの発見できる筈もありませんねぇ。しかし想像はできます。
このカメラのシャッター速度は2S-1/500SでEV範囲がEV2-17となっています。シンクロ速度は1/60
つまりEV9以下は絞り開放でEV9からEV17までは直線的に絞りとシャッター速度が変化していくと考えられます。そこからプログラムマップを予想してみました。
このプログラムマップが正確ならば、絞りがF5.6って事はEV12程度と判断されているってことになります。実際はEV15の明るさがありますから、シャッター速度が1/250ちょいでF11程度にならないといけません。EV15の明るさでもEV12程度と判断されている、このままでは3段ほどオーバーです。
底蓋内に半固定抵抗が二つありますからここで調整できそうな気がします。時定数はCR(コンデンサとレジスター)タイマーで作っていますからコンデンサー付近の半固定抵抗、下の写真でいうと下側の半固定抵抗が調整用では無いかと予想しました。コレを一か八か少しだけ回してみます。
絞りがいい感じになりました。元は左側で調整後が右側です。ほんの少しだけ反時計回りに動かしました。
これぐらいの開き具合なら、なんとなくF8からF11程度かな?最初よりはまともな感じに見えますから、とりあえずコレでいってみようと思います。
1号機は正常稼動品と2号機は故障した基板(バルブになる)、劣化したCdS、レンズシャッターの部品破損と故障の塊なジャンクカメラになってしまいました。2号機にも敬意を払いきちんと組み立てておきましたw
光学系のクリーニング
ここからは正常稼動品となった1号機に関してのお話をしていきます。
レンズは前玉が汚れていたのでクリーニングしましたが残念ながら少しクモリが残りました。
このカメラのコーティングは少し弱い気がします。ピントはCdS窓を塞いで確認しましたが問題ないようです。
ファインダーはクモリがひどいので分解してクリーニングします。逆ガリレオあるあるなんですが1枚目と2枚目の間が特にクモっています。
しかし隙間が広めなので竹串をヘラのような形に削ってクリーニングしました。またアルバダフレーム用の蒸着を傷めないように注意深くクリーニングしました。
最終チェックとコンディション認定
バッテリーチェク用の緑LEDや手ブレ警告用の赤LEDも正常でフラッシュ同調速度への自動切り替えやマニュアル絞りも正常、明るさによってシャッター速度と絞りも連続的に変化しているようです。って訳で全て正常になりました。
コンディションは並品でも良いと思いますが露出をアバウトでしか調整できませんので難あり品かと思います。試し撮りしてみてOKならば並品と言って良いと思います。
あとがき
最後まで読んでいただき感謝です。
通常はヤラナイ「ニコイチ」修理ですが今回はレンズシャッター内のプラスチック部品の破損のため「ニコイチ」以外での修理は困難ってことで「ニコイチ」に踏み切った次第です。こういった重要な部分にプラスチック製の部品を使うのはやめてほしいですね〜。
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