寒さに凍えている、ジャンカメハンターのぐりやんです。ぶるっw
本日の獲物はインテリジェントシューター「CANON T70」なのであります。

CANON Tシリーズの特徴は何と言ってもプラスチックムキ出し感そのままのボディで、色もグレーなところです。今までのカメラからするとちょっと異質で賛否両論が有ったようですが、次世代型一眼レフを予感させるカメラだったと言えるかもしれませんね。
そんなTシリーズの2機種目として発売されたT70はグッドデザイン賞を受賞したカメラなのです。
また、セット販売されたレンズが単焦点ではなく「標準ズームレンズ」になった初めてのカメラだったような気がします。
インテリジェントシューター「CANON T70」
いつの頃からか?キヤノンはカメラにキャッチフレーズをつけるようになりました。A-1にはスーパーシューター、AE-1には連写一眼といった具合で、T70はインテリジェントシューターでした。
TシリーズはT50(1983)から始まりT70(1984)T80(1985)T90(1986)と毎年新型が発売されていきました。1985年は一眼レフに革命が起きた年、そうミノルタのα7000が発売された年なのです。T70が発売された1984年はまさに一眼レフ界にAFの波が押し寄せる前夜だったのですね。
T70の外観で目を引くのは、上でも述べたとおり色がグレーだという事でしょう。
そのほかにも特徴は多くワインダー内蔵で操作系はボタン操作メインでダイアルは有りません。
ボディ上面には大型の液晶パネルが搭載されており、フィルムカウンターや露出モードなどの各種情報が表示されます。
機能面では、露出モードが新しいです。ノーマル、ワイド、テレ、のマルチモードのプログラムAEが搭載された事、そしてキヤノンお得意のシャッター速度優先AEも進化していて任意に設定したシャッター速度ではオーバーやアンダーになる場合はシャッター速度が自動的にシフトされて適正露出を保ってくれるのです。(これはミノルタXDのシャッター速度優先超自動露出と同じ)またFDレンズ以外にも対応できるよう実絞りAEが搭載されています。これは絞込み絞り優先AEとも言えるもので、FDレンズ以外のレンズを使用する場合に絞り込んだ状態でシャッター速度を自動で調整してくれるものです。これを搭載しているって事は絞り優先AEも搭載できたのでは?と思うのは拙者だけではないと思うんですがねぇ。
上にも書きましたが、このカメラは標準ズームとセットで販売されました。
その標準ズームレンズは、前にジャンクで入手したNewFD 35-70 F3.5-4.5なんですよね。
早く修理して、このレンズと合体させたいw
状態
もちろん、お札不要な価格で入手したジャンクです。
状態はどうかというと、外観やファインダーなどは極上と言って良いレベル。電池を入れて動作確認をしてみましょう。
と?ビープ音が悲しく鳴り響くだけで、全く動作しません。液晶の表示も変ですねぇ。
一体どこが悪いのか?
シャッター幕を見ると中途半端な位置でスタックしているようです。
ネットや動画サイトでこのカメラを修理した人が居ないか探しても見つけるとが出来ませんでした。
唯一の手がかりは英語版のリペアマニュアルです。
さあ、一か八か!チャレンジしてみましょう!
分解と修理
注:この修理には高度なハンダ付け技術、繊細な組み立て技術が必要です。またギアのアライメントが決まっているため組み合わせをミスると正常に動きません。
そして同じように修理しても治らない可能性もあります。
もし挑戦しても元に戻らなくなる可能性が高く、オススメできません。
挑戦してみようという方がいらっしゃっても自己責任でお願いいたします。まずはサービスマニュアルの入手と研究をお勧めします。
修理に失敗しても、当方は責任を取りませんので、自己責任でおねがい致します。
悪しからずm(_ _)m
まずは、巻き上げ駆動部に問題がないか確認したいので、底蓋を開けてみました。
ここで大事な注意点があります。底蓋を外す時は巻き戻しボタンを押し込んでから取り外す事!巻き戻しボタンを押さずに無理やり底蓋を外すと簡単に壊れます。(実は壊してしまいました。直しましたけど(^_^;))

で、このギアの辺に問題がありそうだと思い確認してみましたが、異状を見つける事は出来ませんでした。仕方がないので本格的に故障探求をしていこうと思います。
分解開始 ミラーボックスを確認
前カバーを開けてから軍艦部カバーを開けます。

流石にこの時代になるとエレキカメラというよりもエレクトロニクスカメラって感じになっています。搭載基板はフレキシブル基板となっていますね。載っている部品は未だゲルマニウムダイオードなど旧世代のものですが、今までいじってきたカメラと比べるとかなり進化しています。バックアップ用と思われるボタン電池が内蔵されているのも面白いですね。メモリーを保持する必要があるとすれば、モードやフィルムカウンターなどでしょうが、ボタン電池の電圧を測ってみると0Vですから死んでいます。電源用の乾電池を抜くと全てリセットされるのでしょうか?カウンターがリセットされるとカウンターが1になるまで空撃ちされそうですから厄介ですね。どうなんでしょうかねぇ。
ま、それは置いておいてどんどん分解を進めます。
参考までに、液晶下のフレキを外すには

フレキの上にはんだ付けしてある、ダイオードが載った小さなフレキを外した後に

スルーホール部分のはんだ11カ所を外す必要がございますのでご参考にw

グリップ内にはガラエポ基板が内蔵されていますね。

フレキ全てをベロっと剥がして、ミラーボックスごと取り外しました。
ミラーボックスのメカニカルな部分をチェックしてみましたが、問題はなさそうです。
シャッターユニットの確認

シャッター羽根を見ると途中でスタックしているようですね。シャッターユニットを抜き取ります。

このシャッターユニットは今まで見たことの無いタイプですが、見た感じはコパルと似ています。
調べてみますと「CANON EMASⅡシャッター」というものらしいです。
羽根の形状や作りがコパルと同じなので、おそらくコパルとの共同開発だったのでは無いでしょうか?シャッター自体は非常に単純な仕組みで、大きなソレノイドが二つ付いています。(写真は撮り忘れましたw)シャッター単体では動作せずミラーボックスと協調して動作するような作りとなっています。また特徴は二つの大きなソレノイドで先幕、後幕共に電磁レリーズする仕組みとなっているところですね。
予想の域を出ませんが、巻き上げが完了してもシャッターはロックされた状態になっていて、レリーズボタンを押すとミラーボックス下のソレノイドでミラーをレリーズし、ミラーアップするとミラーボックスにあるレバーがシャッターユニットのロックを解除し、次に先幕用のソレノイドが作動し設定時間後に後幕用のソレノイドが作動する仕組みになっていると思います。
ですが、どこにも異状は見受けられないようです。とはいえ、ダンパーが加水分解することで有名なキヤノンのシャッターですから、一応シャッター幕を分解しダンパーを確認しときます。(羽根の枚数は先幕後幕共に5枚でした)


見た所ダンパーは4つありましたが、加水分解は皆無で非常に状態が良いです。

これには驚きました。おそらく防湿庫で大切に保管されていたのだろうと思います。
やはり湿気の多い日本では防湿庫は必須ですね。




作成の参考までにダンパーのサイズを記録しておいた。
シャッターチャージなどのメカニカルな動きを確認してみます。
シャッターユニットの動作に問題はないような気がします。
巻き上げ駆動部の確認と故障の原因
さて、ここまで分解しましたが異状箇所は発見できていません。
残すはあまり触りたく無いグリスまみれの巻き上げ駆動部です。
巻き上げ駆動用のモーターは巻き上げスプール内に内蔵されているみたいですが、モーターが回転する音はしていましたので、モーター自体は生きているはず。
ですからピニオンが空回りしているかギアに何かが挟まって回転を妨げているか、どちらかが原因だと考えられます。

モーターの端子は露出していますから、ここに3Vを掛けてやればモーターが動くとは思いますが、如何せんプラギアばかりで破損する可能性がありリスクが大きすぎます。ギアの動きは分かりませんが、どちらかに回転すれば巻き上げ、逆に回転すれば巻き戻しに切り替わるのでは無いかと思います。ですから軽く回るギアに検討をつけて適当に手で回してみます。すると、どうもやらギアに何かが引っかかっている様な感触です。軍艦部内のギア(上写真)は露出しているので確認は容易、問題はなさそうですが、スプロケットを駆動するクラッチ内蔵ギア上のナットが緩んでしました。どうやら他のギアが引っ掛かったせいで想定外の力が加わって緩んでしまったのでは無いかと思います。

残るは底面のギア群です。グリスがタップリ塗られていますから、何か硬い異物が入ると簡単に噛み込んでしまいそうです。怪しいっすね。触りたく無いけれど分解して確認します。
と?

でたー。ダンパーの破片です。どこから剥がれたものかは不明ですが、ギアの間にグリスにまみれて噛み込んでいました。これを取り除いてギアを手で回してみますと、嘘みたいに軽く回るではあ〜りませんか!
勝った!ここで勝ちを確信しました。故障の根本的な原因はこれに間違いないでしょう。
しかし、ここまでで外したハンダ箇所は40箇所を超えます。さて、元にもどるのでしょうか?
これだから電子カメラはイヤなんですよねー。
途中まで組み立てて動作確認
「ここまで組めば動作確認ができるであろう」ってところまで組み立ててみます。UP、DOWNボタンなどはなくても大丈夫だろうって事で、まだ取り付けしていません。
この状態で電池を入れて試してみます。さて、どうでしょうか?
キター♪───O(≧∇≦)O────♪
無事に動きました!裏蓋を閉めると、カウンターは「1」を表示するまで自動巻き上げされて、ビープ音はなし。レリーズでちゃん動きます。成功です!
最終チェックとコンディション認定
残り軍艦部との配線をやり直して、レリーズフィーリングがギシギシとした感じだったのでレリーズボタンもバラして整備しました。


露出プレビューボタンの押し込みが好みではなかったのでストロークを減らす為にタクトスイッチにフィルム片を接着しときました。あとは、元どおり組み立てました。
ファインダー内の表示もOKですね。元々クリーニングは不要と言えるぐらいキレイな個体でしたし、非常にスムーズに動きますので美品と言いたいところですが、バックアップ電池のことを忘れてはいけません。単三電池を抜いてしばらく置いてみると、やはりメモリーがリセットされてしまう様です。
単三電池を入れ直すと、カウンターの表示が消えていてISOが点滅します。そのままレリーズすれば写真は撮れますが、どうもいただけませんねー。
ってわけで、今回は難あり品に認定です。ボタン電池を交換すれば美品でも良いと思います。
いろいろ試してみたところ、電池を抜いても数十分程度はメモリー保持されている様子なのでとりあえずはこのままで良いかなと思います。気が向いたらボタン電池を交換しますねw。
あとがき
T70の整備についてはネット上の情報が皆無でしたがサービスマニュアルが入手できましたので、なんとか復活させることができました。テスト用のフィルムを入れて動作確認したところ、フィルムが最後まで巻き上げられて、駆動部に負荷が掛かると3つのバーが点滅し「ピピピピ」とビープ音がビープ音が鳴る事がわかりました。つまりギアに異物(ダンパー片)が挟まりモーターに負荷が掛かってしまい、フィルムが最後まで巻き上がったのと同じ状態になっていたのだと思います。

結果的には底面にあるギアの異物を取り除くだけで直った可能性もありますが、同じ様な故障の場合スプロケット軸上のナットが緩んでいる可能性がありますし、シャッターユニット内のダンパーが溶けている可能性が高いですから整備する場合は全バラ覚悟で臨んでください。

最後まで読んでいただき感謝です。今回は動画を多用してみましたが如何だったでしょうか?
このカメラを操作してみると、確かにインテリジェントシューター的な感じで、なかなか面白い設計思想が感じられますね。それについてはいずれお話ししたいと思います。
T90も欲しくなってしまいましたw
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